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小説

岡島二人「クラインの壷」を読み終えた感想

岡島二人「クラインの壷」

ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は……。現実が歪み虚構が交錯する恐怖!

読み終えた感想

集中して一気に読了。

仮想現実(VR)をテーマにした
SF要素のあるミステリー小説。
このリアリティで1989年に発売されていたという事実に衝撃。

小学生の頃に家のとても動作の重いパソコンをガガガと唸らせながらネットサーフィンをしていた記憶がある。それですら90年代後半だ。

今でこそVRの技術は一般人が馴染みやすいところまで進歩してきたが、この小説が発売された当時のことを考えると、とても前衛的な設定だと思う。

ちなみに、
作者の岡島二人さんは作家2人の合作ペンネーム

クラインの壷

タイトルにもなっている物語の重要キーワード

作中の正式名称は「クライン2(K2)」

全裸になって機械の中に入り
仮想現実を体験できる装置のことを指す。

クラインの壷はあらゆる感覚がまるで現実と区別がつかないほどリアルに再現することのできる画期的な装置。スポンジラバーと呼ばれる物質により人の皮膚と直接情報をリアルタイムで入出力することで、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感すべてを完全に再現するという仕組み。

ゲームの原作者である主人公の上杉彰彦ともう一人、高石梨紗はゲームのテスターとして何度もこのクラインの壷に入りゲームにバグがないかをチェック日々を送ることになる。

イプシロン・プロジェクト

上杉と原作『ブレイン・シンドローム』の著作権使用の契約をしたゲーム開発会社。

しかし、まるで秘密結社かのように機密情報が多い組織。

アルバイトとして参加している上杉と高石に対してほとんどの情報が隠されていた。

ある出来事をきっかけに上杉は違和感や不信感を覚えた。そこで上杉は独自に調査を開始する。

現実と仮想現実

この作品の最大の見所。

あまりにもリアルすぎるクライン2のテストプレイを通して、次第に上杉は現実と仮想現実の定義が曖昧になっていく。

私は読み進めながら 水槽の脳 を思い出した。

水槽の脳とは…
アメリカの哲学者ヒラリー・パトナム(1926-2016)による思考実験。

「実はあなたには、手も足も体もありません。頭蓋骨すらありません。あなたは、培養液に満たされている水槽に浮かんでいる、むきだしの脳なのです。そしてこの脳には、脳波を正確に操作することのできる電極が精密に取り付けられていて、高性能のコンピュータから、ヴァーチャル・リアリティを構成するデータの電気信号が送られています。五感からの信号を受け取るはずのあなたの脳の部分は、その代わりにこの電気信号を受け取って、現実世界のように感じているだけなのです。あなたの恋人も子供も、きのう体験したことも、今朝食べたトーストも、今見ていることも、すべてヴァーチャル・リアリティです。」

出典:バラ十字会日本本部AMORC

とてもゾワっとする仮説…

この小説「クラインの壷」では

もし今体験しているのはゲーム?それとも現実?
それを裏付ける証拠は?

そう、確認しようがない。
だって正解がわかってもそれが現実だという保証はどこにもないのだから。

現実の自分の記憶と仮想現実のデータ化された記録。

記憶と記録。

記憶は記録。

記録は記憶。

こんな恐ろしさがスリル満点に描かれている。

そして読者の違和感を書き立てるような伏線やミスリードも施されていて最後のオチはゾクゾクした。

まとめ

後半の追い込みはテンポも良く抜群。

途中、あからさまな伏線から「あ、そゆことね」となんとなくオチの予想ができる。

が、しかし事件発生→解決 みたいに簡単にはいかない。
結論なんてないのだから…

私は最後まで読んでようやく作者が問いたかったことが理解できた。

「そゆことかぁ!」